投資見通し
経済と市場
セクション2:経済と市場
知っておくべき重要ポイント
経済成長はペースが鈍化しているのであって止まっているわけではない
第1四半期(4-6月)の米国GDP成長率は2022年以来初めてマイナスを記録しましたが、基調的な成長率は年率2.5%と依然として堅調でした。この水準は昨年のペースを若干下回ります。しかし、当社では年末に向けて関税の影響が大きくなり、基調的な成長率も1.0%程度に鈍化するものとみています。消費や企業の設備投資は弱含んでいますが、米経済は不確実性の時期に入りつつある中で、足元は安定しています。消費は前年比で実質2.9%増加しており、コロナ禍以前の平均を上回る水準が続いています。AI革新に必要な情報処理機器への投資は前年比で20%近く増加し、これまでの10年間のペースを大きく上回っています。米国以外では、当社は欧州でも日本でも、米国同様、通年で1.0%程度の経済拡張を予想しています。
見通しを最も大きく左右するのはやはり関税で、上振れ・下振れいずれの方向でも最大のリスク
今年初め、米国の実質関税率は3%弱でしたが、トランプ大統領が4月2日に「解放の日」を宣言して基本関税を10%以上とし、国によっては最大50%の関税にする旨を発表したことで、貿易戦争が一気に激化しました。トランプ大統領はそれ以前に、カナダ、中国、メキシコを標的にして、鉄鋼、アルミ、自動車に業界固有の関税を発表しており、これはそれがさらにエスカレートしたものといえます。極端な措置の一部は一旦保留となっていますが、貿易は変動の激しい状況が続いています。
米国の中国に対する相互関税はエスカレートし、EU(欧州連合)に対しても関税引き上げの脅威があり、銅、木材、医薬品、半導体、魚介類、航空機などセクター固有の追加関税が発動される可能性もあります。全体的に新たな米国関税率は実質10%程度と、昨年の4倍近くに引き上げられることになると思われますが、4月2日の発表で示唆された20%超に比べるとかなり下げられています(図表1)。イスラエルとイランの間における緊張の高まりと、それ以外にも幅広い地政学的混乱によって見通しは不透明となっています。
財政リスク再び
この10年間、長期国債を保有することの代償として上乗せされるタームプレミアムはほぼゼロの状態が続いてきましたが、今年になって世界中でタームプレミアムが急上昇しています。測定方法や国にもよりますが、タームプレミアムは2024年の低水準から約100ベーシスポイント上昇しています。最大の要因は先進国市場の財政を巡る懸念の高まりで、現在米国議会で審議中の予算案は今後も変更される可能性がありますが、結果的には現在のベースラインよりも赤字は拡大すると当社は予想しています。赤字拡大の理由は減税措置の更新と拡大で、それを支出削減と関税収入および成長加速で補う予定ですが、全部を相殺することはできないと思われます。同様の財政緩和は欧州でもみられ、その最たる例はドイツで防衛支出増を認めるために「債務ブレーキ」が変更されたことでしょう。財政緩和のメリットとしては、目先は経済成長のカンフル剤になるでしょうが、さらなる利上げとそれに伴う金利支出、その結果として最終的には成長率が低下するリスクも高まっています。
米国金利は徐々に低下し、他国との格差が縮小
米国と世界各国の経済成長率鈍化が予想される中、世界の中央銀行の大半は緩和モードを継続するでしょう。とはいえ、関税や財政政策、それに伴う経済的影響を巡る不透明感は高い状況が続いています。 企業、消費者、投資家は一様にある程度の麻痺状態に陥っており、大きな決断を下す前に状況が明らかになるまで様子見としています。当社は中央銀行も同様の態度を取ると考えます。経済指標にもよりますが、FRBは年内にあと2回利下げを、おそらく9月と12月に実行すると予想します。関税によって目先インフレ率は押し上げられ、それがまた、政策決定者が忍耐強く待つ理由となるでしょう。欧州では、欧州中央銀行(ECB)が当面はこれ以上の利下げは保留し、日本銀行は利上げを1回行うと予想します。世界経済は減速し、主要経済国の経済成長率は収斂に向かうでしょう。その結果、長期国債利回りの格差は縮小すると思われ、当社は、米国、英国の10年国債利回りが下がり 、一方でドイツと日本では小幅上昇すると予想します。
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