2024年3月7日
オルタナティブ
2024年 プライベート・ キャピタルにおける 4つの投資テーマ
2023年は、資本市場におけるいくつかの重要なテーマによって特徴づけることができます。米国連邦準備制度理事会(FRB)のインフレとの戦い、その結果生じた長期にわたる高金利環境の継続が発行体に及ぼした影響、買い手と売り手の両者にとって借入コストの上昇やバリュエーションの乖離、不安定なポートフォリオ・パフォーマンスに対応する中での合併・買収(M&A)活動の大幅な減速、そしてバイアウトのための資金調達手段がパブリック・クレジットからプライベート・クレジットへと着実に移行したことです。
2024年はプライベート・キャピタルの成長と
投資機会という新たな「ゴルディロックス
(適温)」時代の幕開けになるとみられます。
この見通しを形成するに至った投資テーマは
4つあります。
- ニューノーマル(新常態)の金利: 新たなマクロ環境とそれが意味すること
- 勝者と敗者: 複数の市場側面からみえる継続的な明暗
- 生き残ることを通じた繁栄: ポートフォリオの卓越性が投資活動を下支え
- 次世代のプライベート・キャピタル像: 資金調達方法が進化し、
次なる応用段階へと移行
このような動向の変化を背景にプライベート・キャピタル(プライベート・クレジットおよびプライベート・エクイティ)は脚光を浴びています。本レポートでは、プライベート・キャピタル市場の新たなトレンドと複雑な動向を明らかにし、市場で現実に起きていることをお伝えしていきます。
「成長」と「リスク」が混同されたことで、プライベート・クレジットの急成長と発行体・投資家双方の間で人気が拡大したことに対して一部で懸念が生じました。しかし、困難な状況下におけるパブリック・クレジットの過去の動向と、将来のプライベート・クレジットのパフォーマンスを紐づけるのは間違いであると考えます。
また2023年の年間を通じたプライベート・エクイティ業界の動向については、(1) デノミネーター・エフェクト(分母効果)、(2) 著しい分配活動の低迷の2つに起因する継続的なオーバーアロケーションが一部で懸念されました。2024年には、プライベート・エクイティ戦略全般に対して、どのように投資資金を振り分けるかを決定するには難しい環境が待ち受けています。
現在の市場動向を踏まえて、今後の案件組成とファンド・レイズに影響を与えそうな2024年の4つのトレンドを特定しました。Churchillのプライベート・キャピタル戦略の中核をなす、あまり理解されていない特徴に関しても紐解いていきます。
1. ニューノーマル(新常態)の金利:
新たなマクロ環境とそれが意味すること
2006年6月に、フェデラル・ファンド(FF)レートは5.25%まで上昇しました。これは2001年初頭以来の高水準でした。2007年から2008年にかけての世界金融危機は、その後10年以上にわたって数世代ぶりの低金利環境をもたらし、この期間は2022年3月にようやく終了を迎えました。若手の金融プロフェッショナルの多くは2008年の景気後退期かその後にキャリアをスタートさせたため、彼らの職務経験はほぼゼロ金利環境下に限定されています。そのため、レバレッジを効かせた借り手が大幅な金利上昇や景気減速、不況に耐える能力を過信しているかもしれません。
過去50年間の平均FFレートは、現行水準に近い5%強です。数十年の投資経験を有するような投資委員会のメンバーを擁するChurchillのようなクレジット・マネージャーにとって、足元のような長期にわたる高金利環境は馴染み深いものです。実際、資金調達の制約は、ストラクチャーの厳格化、発行体の借入比率(レバレッジ)の低下、スプレッドの拡大という形で表面化しており、これらはクレジットの買い手にとって好都合なものです。また市場環境の過熱を防ぐ効果もあります。
FRBは利上げの停止を示唆し、代わりに2024年には少なくとも3回の利下げを暗示していますが、インフレに関する長期的な見通しは依然として不透明です。経済の力強さと資金需要の旺盛さが相まって、利下げのペースは2022年から2023年にかけての利上げペースとは異なるものになる可能性を示しています。そうなれば、ゼロ金利環境に早期に回帰することはないかもしれません。
これは、クレジット投資家にとっては「黄金期」といえるかもしれません。一方で、利下げによりプライベート・エクイティ・スポンサーにとっての資金調達環境は改善していくと予想されます。2023年のM&A活動が低調であったことを考慮すると、GPはLP投資家に対する投資の実現が遅れています。デットのオールイン・コストがより好意的なものになるにしたがって、エクイティのリターンは改善し始め、それに伴って2024年にはドライパウダーの消化が加速すると期待しています。
こうした傾向も、ポートフォリオのパフォーマンスにとって追い風になります。基準金利が低下してくれば、金利カバレッジ・レシオおよび固定費用カバレッジ・レシオがより管理しやすい水準に戻り、PIK (Payment-in-kind)を利用している借り手はキャッシュ支払いという選択肢をとることができるようになるかもしれません。
2024年前半は、先の世界金融危機レベルの景気後退が起きない限り、FRBは2010年から2022年にかけて実施したような金融緩和を行ったり、インフレ率を目標である2%に完璧に近づけるようなこだわりはみせないと考えています。そうなれば、金利は旧来の平均値に回帰し、よりバランスの取れた経済になる可能性があります。
プライベート・クレジットの「黄金時代」ではなく、借り手と投資家の双方に利益をもたらすニューノーマル(新常態)、すなわちプライベート・クレジットの「ゴルディロックス時代」が到来するかもしれません。
2. 勝者と敗者:
複数の市場側面からみえる継続的な明暗
進化し続ける市場環境の中で、現在のマクロ的な圧力と広範な不確実性が相まって、多次元にわたって興味深い分断がみられています。2024年には、プライベート・キャピタルのアセット・マネージャー、プライベート・エクイティ・スポンサー、投資先企業という3つの主要な市場参加者間で分断が続くと予想しています。景気の鈍化、ボラティリティや地政学的ショックのリスクを乗り切るには、急速に変化する環境の中で、勝者と敗者を見極めることがこれまで以上に重要となります。
今日の市場における勝者には、さまざまな特徴があります。
- アセット・マネージャーについては、 多額の投資規模、広範な投資体制、多様なドライパウダーの調達先、持続可能なディール・ソーシングの優位性を有するマネージャーが成功を収めるでしょう。このようなマネージャーは、最高品質のディール・フローを確保し続け、最も堅固なポートフォリオを構築し、最も多様な投資資金を惹きつけ、どのような市場サイクルにおいてもレジリエンスを維持するでしょう。
- プライベート・エクイティ・スポンサーについては、 潤沢なドライパウダーを持ち、バリュエーション面で規律を維持できる企業が、最良の投資機会への「バイヤー・オブ・チョイス(優良な選択肢のある買い手)」として優位に立つでしょう。このような企業は、金利のニューノーマル(新常態)により素早く適応し、成長のために金融市場だけに頼らない多角的な価値創造計画を策定することができるとみています。
- 投資先企業については、 保守的なバランス・シートを有し、PIKによる支払いの柔軟性を有する複数の資金調達戦略を組み合わせて採用している企業が、有機的・無機的な成長機会を追求することができるでしょう。このような企業は、自社の事業プラットフォームをさらに多様化し、収益性とキャッシュ・フロー創出力を確保・強化することが可能です。このことにより、金利上昇環境においても、企業価値はさらに高まります。
プライマリーLPのコミットメントとエクイティの共同投資の両方に積極的なプライベート・エクイティのアロケーターほど2023年の好例となるものはないでしょう。プライマリー投資のポートフォリオからの分配状況と共同投資のドライパウダーには明確な相関関係があることが、年間を通じて明らかになりました。プライマリー投資のコミットメントとエクイティ共同投資の両方のドライパウダーの予算を一元管理している機関投資家は分配金の減少が続いたことで共同投資の予算が制約を受けて参加率が低下したため、Churchillにとってはエクイティ共同投資における競争環境が著しく好転しました。
一方、敗者はこうした各カテゴリーで対照的な特徴がみられます。規模や総合力を欠き、案件の組成に苦戦しているアセット・マネージャーは、案件数自体が既に減少しているような環境の中で大きなハードルに直面するか、参加できずに傍観することになるでしょう。同様に、バリュエーションにおいても規律に欠け、十分なドライパウダーや新規またはより大きな資金の調達力がないプライベート・エクイティ・スポンサーは、付加価値の高いパートナーシップが最も重視される競争プロセスで後れを取るでしょう。資金調達に積極的で、キャッシュ支払いの金利負担が著しく高い投資先企業は、不利な立場に立たされ、手元キャッシュ・フローをすべて債務返済に振り向け、経済の混乱を乗り切るためのクッションがほとんどないまま、成長イニシアチブを妥協することになります。
これらの主要な市場参加者における分断は、今後1年間、極めて重要な投資要素となる見込みです。中庸でも生き残れる時代は終わりました。凡庸な企業は勝者と敗者によりはっきりと明暗が分かれることとなります。勝者が採用する戦略(規模の拡大、多様な事業体制の成長、ソーシングにける真の優位性、バリュエーションにおける規律、保守的かつ柔軟なバランス・シート構造の維持)は、2024年の成功への明るいロードマップの象徴となるでしょう。
3. 生き残ることを通じた繁栄:
ポートフォリオの卓越性が投資活動を下支え
今日の勝者が現在の市場で成功を収め続ける中で、勝者と敗者の明暗の差がさらに拡大することになります。健全で質の高いポートフォリオを持つプライベート・キャピタル・マネージャーは今後も攻勢を続け、市場シェアを獲得していくはずです。Churchill自身のポートフォリオをみても、M&A市場全体が軟調に推移しているにもかかわらず、2023年には2022年の過去最高とほぼ同水準の110億ドルを超える案件をクローズまたはコミットすることができました。
優れたポートフォリオを作るためには何が必要でしょうか? それは以下の原則に従うことだと考えています。
- 盾としての多様化: セクター、案件のストラクチャー、レバレッジ特性、スポンサー、企業モデルなど、多様な側面から分散を検証する必要があります。絶対的に重要なのは ポジション・レベルの分散です。Churchillの案件当たりの平均ポジション・サイズはポートフォリオ全体の1%程度です。このように分散に重点を置くことで、個別の案件で困難な状況に陥ったとしてもその影響を最小限に抑えることができます。そのため、特定の分野(例えば、マルチ・ユニット・ヘルスケア、サード・パーティー・ロジスティクス、デジタル・マーケティング)においては確かに逆風が吹いていますが、Churchillは攻めの姿勢を維持しています。
- 質への逃避アプローチ: 経済状況にかかわらず、常に質の高い資産を優先すべきです。堅固な発行体を一貫して(相場の上昇・下降両局面で)支援することで、投資家は、「ウォッチ・リスト」に載せる銘柄を最小限に抑え、厳しい環境の中でも持続的な成長を遂げる耐久性のあるポートフォリオを持つことができます。クレジット・クオリティについて考えるとき最優先されるのは、1) 強力なキャッシュ・フローと利益率を持ち、2) 生活必需製品やサービスを提供し、3) サービス志向のB to B(企業間取引)エンド・マーケットで事業展開している発行体です。
- 明確な連携関係: スポンサーが支援する投資先企業への投資は、リスクを軽減する上で極めて重要です。GPは市場サイクルを通じて価値を創造してきた深い経験をもたらすだけでなく、何よりも、通常はエクイティ投資を通じて、優良な成果を創出してきました。Churchillのポートフォリオでは、スポンサーが資本構成の40~60%のエクイティを出資しているのが一般的です。これにより、最終的に良い結果を導き出すという真のコミットメントが生まれ、問題が発生した場合には、プライベート・キャピタル・パートナーの真の協力者として行動することができます。さらに、プライベート・エクイティ・スポンサー付きではない案件を排除することで、効率的かつ賢明に、最良の機会にリソースを集中させることができます。
分散されたポートフォリオを維持し、底堅いセクターに注力して、強固な連携を通じてリスクを軽減することで、プライベート・キャピタルの投資家は困難を乗り切るだけでなく、不確実性の中でも成功することができます。2024年に市場全体のM&A総額が予想通りに回復すれば、これらの勝者は持続的な成長に向けて非常に有利な立場に立つでしょう。
4. 次世代のプライベート・キャピタル像:
資金調達方法が進化し、次なる応用段階へと移行
FRBによる急速な利上げの間、パブリック市場が十分に機能していなかったため、流動資産は実態経済からのみならず、銀行の準備金、トレーディング・デスク、CLOの組成、リテール資金のフローからも流出しました。勿論、これは銀行がバランスシート上にレバレッジド・ローンを保有することを抑制するための、規制当局による数十年にわたる取り組みに加えてのことでした。
その結果、バイアウト・ファイナンスは、広範なシンジケート・ローン市場やハイ・イールド債券市場から離れ、プライベート・クレジット・マネージャーへと着実に移行していきました。発行体にとっては、シンジケーション・プロセスに依存することなく迅速に資金調達が可能となり、マネージャーが(セカンダリー市場に流すのではなく)デットを自身で保有することでプライスが確実になるというメリットがありました。同時に投資家は、より高いプレミアム、より優れたプロテクション、より厳しい条件、相関性の低い資産から得られる安定したリターンを享受しました。
金利が低下すると流動性の高いローンにとって有利な条件が生まれる可能性があります。CLOのエクイティ・アービトラージが向上することが、より多くのビークル(金融商品)形成を下支えするからです。この段階で、銀行がミドル・マーケットのハイエンド、つまりEBITDAが1億ドルを超える借り手に対して、より高いレバレッジ、ユニトランシェ、コブライト案件、よりタイトなプライシングで参入してくるのが、このサイクルの典型的な特徴です。
現状状況が異なるのは、この数年間で最大手のプライベート・デット・マネージャーが、10億ドルを超えるコブライトのターム・ローンの保有を増加させたことです。また、彼らは小売、ソフトウェア、テクノロジーなど、専門的な業種に特化した専門知識と能力を備えています。EBITDAが2,500万ドルから1億ドルの伝統的なミドル・マーケットの借り手については、パブリック・ファイナンスとプライベート・ファイナンスの比率の極端な偏りからダイレクト・レンダーが、恩恵を受けています。プライベート・デットが主導する健全な案件の創出により、今後何年にもわたってリファイナンスや新たなレバレッジド・バイアウトが生み出されることでしょう。
また、Churchillのような選り抜きのミドルマーケット・アレンジャーは、強力なワンストップ・プラットフォームを構築しており、バランスシートの上位下位を問わず、プライベート・エクイティ・スポンサーが求める複雑な資本ソリューションのニーズに対して幅広く洗練された選択肢を提供することが可能です。
その一例がPIKクーポン・ストラクチャーです。金利が上昇し、それに伴って借り手のキャッシュ・フローへの圧力が生じた時、PIKは持株会社劣後ノート、または契約上のリターンをすべて未収リターンの形で持つ優先株式として組成できます。また、柔軟性を高めた伝統的な事業会社のメザニン・ローン投資としてPIKが登場したこともあり、借り手は利息の一部を依然としてキャッシュで支払えますが、PIKの構成比は高くなっていくかもしれません。
プライベート・キャピタルのリーダー達が次世代の投資ケイパビリティを強力に示しているのが、プライベート・エクイティ・セカンダリーです。セカンダリーは、投資家の流動性を確保するためにプライベート・エクイティ・ファンドのLP持分を売買することから生まれましたが、現在ではGPやLPが、集中したエクスポージャーの管理、パフォーマンスが最も高い資産のデュレーション延長、テールエンドのポジションの清算など、ポートフォリオの課題を管理するためのツールとなっています。
最も注目すべきは、最近の継続ビークル(CV)の急増です。CVは、支配権の変更を伴わずに、スポンサーのポートフォリオ内の1つまたは複数の事業のエクイティ・スタックをリファイナンスします。また、CVは既存の保有期間を延長したり、付加価値をもたらすM&Aやプラットフォーム投資のためのフォローオン資金を提供したりすることもできます。CVの役割は、企業が質の高い資産を保有できるように進化してきました。
プライベート・キャピタルのリーダーたちが次世代の投資ケイパビリティを強力に示していくのが、エクイティ・セカンダリーです。
規模や総合力を欠き、案件の組成に苦戦しているアセット・マネージャーは、大きな壁に直面するか、案件に参加できずに傍観することになるでしょう。
結論
2024年には、市場で浮上してきている新しい投資テーマを捉える最適なポジションにある参加者のために、市場動向の変化が優良な投資機会を創出する見通しです。
- 金利が過去平均に近づき、よりバランスの取れた経済環境
- プライベート・キャピタルのアセット・マネージャー、プライベート・エクイティ・スポンサー、投資先企業における分断
- M&A件数が増加する中で質の高いポートフォリオを有するマネージャーが引き続き攻勢をかけ、市場シェアを拡大させていく可能性
- プライベート・エクイティ市場のニーズに応えるために、ワンストップ・プライベート・キャピタル・プラットフォームが提供する次世代型のファイナンシング・テクノロジー
これらの投資テーマは、今日の市場において投資家に機会とリスクの双方をもたらしますが、慎重に舵取りをすれば、プライベート・キャピタルの「ゴルディロックス時代」の幕開けとなり得ると確信しています。
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